『孟子』と懐徳堂の講義
懐徳堂でもう一つ重視されていたのは、『孟子』です。『大学』『中庸』『論語』『孟子』の四つは、朱子学の中で「四書」と呼ばれて重視され、科挙の必修テキストにも指定されました。日本に伝来した朱子学の中で、『孟子』が重要な古典として読まれたのも当然でしょう。
正義と利益の関係を『孟子』に読む
懐徳堂では、『孟子』の講義を通して、次のように「義」と「利」との関係を説いていました。初代学主三宅石庵の『孟子』講義を紹介してみましょう。
「仁義を実践する者は、自ら利益を追求するわけではないが、自然と利がついてまわるのである。「利」は勝手のよいものであって、そのこと自体に差し障りがあるわけではない。しかし、利益追求だけを好むようになると、そこに弊害が生ずるのである」。
このように、石庵は、伝統的な儒家思想の中で厳しく対立すると考えられてきた「利益」と「正義」とについて、柔軟な思考を展開しています。つまり、正義の実践者には結果として利がついてまわるという前後関係を想定し、また、「利」そのものには害はないが、それを追求する欲望が弊害を生むという形で、両者を統合してみせるのです。